スクリーンショット_2019-03-16_15

第6話 「水曜どうでしょうVSコンプライアンス」

水曜どうでしょうカメラ担当ディレクター・嬉野雅道と、SHARP公式の中の人・シャープさん。大阪で語り合った連載の第6話をお届けします。(聞き手:嬉野珈琲店、T木)
*前回のお話はこちら→第5話 「炎上の火中、エモさで飛び込む」

----------------------
シャープさん:
うちの会社の問題は、いったんは落ち着いたんですけど。その後は影響もあります。

嬉野:
これこそ怒られるでしょう。

シャープさん:
でも本当にね、人事の人ってこんな何の意味もない言葉を並べながら
「採用サイトのエントリー全然応募こないんですよ」とかいうんですよ。

嬉野:
なるほどねえ。

シャープさん:
そんなん当たり前じゃないですか。それが変だなって思って。あとはなんというかやっぱり会社って若者に厳しいところがあるんで。

嬉野:
「もし何か起こったらどうする」

T木:
これは結構、すごい。

シャープさん:
このころ僕たぶんいらいらしてたんだと思います(笑)

T木:
ちゃんとオチもあって。

嬉野:
どの会社にもいやなこという人いますよ。

T木:
そうですか。

嬉野:
うん。たとえば、ある村で良くないことが起きるとするでしょ。そんなときずっと注目されてなかった老人が「祟りじゃ」って言い出すわけ。

会場:
(笑)

嬉野:
はじめてそれで自分の存在を見せられるわけですよ。

T木:
各組織に必ず「祟りじゃ」と言い出す人が…。

嬉野:
そうそう。「もしなにかあったらどうするんだ」って。そしたら言われた人は萎縮する。

シャープさん:
そういうこと言うのが仕事の人がいるんですよ。

嬉野:
うちの番組なんか「もしなにか」どころか、問題ありまくりですから。

会場:
(拍手)

嬉野:
放送当時とDVD化する時でコンプライアンスの基準も違いますからね。むしかえしたら大変なんで、話そうかどうか迷ってますが。

T木:
お願いします(笑)

嬉野:
まあ、われわれ意外だーれもいないような、一台の車も通らないようなところだとね。すっごく厳密に言えば、各種法令上、好ましくないことをしてたって場合がある。

会場:
(笑)

嬉野:
だれもさ、大都会の駅前でやろうって言ってんじゃないよ。島とか、山奥とかさ。でもそれもバキっとカメラは押さえてるから。

T木:
そうですよね…(笑)

嬉野:
なんの被害も出していないんだけども、「DVD大丈夫か」と上から聞かれるわけ

シャープさん:
なるほど。

嬉野:
「絶対、大丈夫じゃないですかね。ファンの人は、みんな欲しいですよ」と答えるほかない。どうでしょうを知らない人からはお叱りを受けるかもしれないけど、どうでしょうを知らない人は、そもそも買わないから。

シャープさん:
はい、はい。

嬉野:
そしたら「そうか大丈夫か」って。でもやっぱりやってみてですよね。結果なんて、やってみないとわからないこともある。それで怒られるかもしれないし、怒られないかもしれない。

T木:
なるほど、です。

シャープさん:
あと最終的にこんなことをやっていると。これ(下記、イラストの左の男性)がぼくです。ツイートは本物なんですけど、そのツイートをしてる日常生活は妄想という。半擬人化。

嬉野:
シャープさん、かなり若い設定なんだね。

シャープさん:
そうですね。でもぼく企画段階からやりとりしましたけど、連載がはじまるまで漫画家さんとは会わないようにしてたんで。ぼくのせいではないんで。

会場:
(笑)

シャープさん:
キーホルダーになったり、ラインスタンプになったり。

嬉野:
ここに書いてある「まとめ買い」ってのは?

シャープさん:
漫画を契機にやった企業コラボですね。実際にセールで、シャープの製品とタニタさんの製品をまとめ買いしたら安くしてました。

嬉野:
ちゃっかりしてますね。

シャープさん:
で、この漫画がなんでこんな人気になったかというと、BLだからなんですよね。

嬉野:
あー、ボーイズラブなんだね。

シャープさん:
最初この出版社から企画もらった時に検索したらBL関連の出版社だとわかって、「これはいける」って。

T木:
それで踏み切られた(笑)

嬉野:
よくオッケーでたよね。

シャープさん:
だからこれぼく認めてないんですよ。非公式に公認してる。

嬉野:
どうでしょうさんでもよく聞く…。

シャープさん:
ようするに黙認。黙認という名の下に協力してました。

嬉野:
企業も黙認してくれてるわけでしょ。

シャープさん:
「ぼくは預かり知らない」と。でもそんだけリスクを負っても"腐女子"の人の懐に飛び込みたいなと。

T木:
懐に。

シャープさん:
そう、そんなこと簡単には広告ではできないですよね。このあとコスプレをしてもらえるようにもなって。6年継続してツイッターしてたらこんなとこまで来ちゃったと。

嬉野:
すごいね。

シャープさん:
いろんな経験を積めましたね。炎上サバイブ経験豊富になったり、即興での返事も強くなって。背景とか文脈を丁寧に積み上げられるようになったり。代わりに社内に友達が減ったり。いま3人しか友達いないですもん。

会場:
(笑)

嬉野:
それだけでも大丈夫、大丈夫。

T木:
すごいですね。嬉野さんの話もずいぶん出ましたけど、嬉野さんも共感されるところがやはり多かったような。

嬉野:
シャープさんは我々以上にいろんな人の目に曝されていると思いますよね。私たちはほら顧客のみなさんと一緒に。

T木:
「顧客のみなさん」。

嬉野:
シャープさんとしてはフォロワーがどんどん増えていくなかで、結構とんでもない人にも発見されちゃうだろうし、大変だったんだろうなという。

シャープさん:
(小声で)そうですね。

嬉野:
声がちっちゃくなってる(笑)
大変な経験を乗り越えてるからファンが離れていかないんだろうなって思う。

T木:
炎上で生き残っていくシャープさんを、古参のファンの人たちは「すごいな」「ぶれないな」と思ってるわけでしょうね。さっきの法令の話だと、どうでしょうも全国区のニュースになったことありましたよね。

嬉野:
あの、砂をね…。

会場:
(笑)

嬉野:
「原付西日本」の時に、禁止されている鳥取砂丘の砂を無断で持って行ったように見えて。本当は砂丘の砂じゃなくて、レストハウスの植え込みのところに溜まっていた飛び砂だったんですけど、番組上はややこしいから「砂丘の砂を持って来た」って言っていてね。

T木:
放送当初は指摘はなく。

嬉野:
そう、何も言われずに8年たったあとですよ。おっかないですよねぇ。そっから映像総ざらいチェックですよ。「大丈夫か!?」って上から言われて。大丈夫なわけないですよ! そりゃあ!(笑)

会場:
(笑)

嬉野:
だって、北海道でしかやらないっていう安心感があったから、それでやってきてたのに。撮影許可だってあんまりとらないわけですから。

T木:
そりゃ、大丈夫じゃない!

嬉野:
それがあれよあれよという間に全国で流れちゃって。だれも「大丈夫ですか」なんて無粋なことは言わなかったですけど、恐れもしらずにDVDまで出しちゃったもんだからね。

T木:
ああいうときのどうでしょう班の炎上サバイブというのはすごい印象に残ってます。

嬉野:
炎上のさなか、お詫びをすることになってね。DVD買ってくれたりファンでいてくれる人たちに、DVDが出せなくなるかもしれないってことには詫びなきゃなと藤村さんが言うわけです。

T木:
中途半端に「世間にお騒がせして」なんてことはいわない。

嬉野:
いや、だって世間をお騒がせしたなんて思ってないもん。

T木:
その時は、嬉野さんは「死刑になってもいい」とおっしゃってました。

嬉野:
いや、あれを言ったのはね。だってだよ。「鳥取砂丘の砂を持って来た」という風にうたって番組を作っているというのは世の中的にはよろしくないわけじゃないですか。

シャープさん:
はい。

嬉野:
だけどもどうしても「『砂』だろ…?」と、心の声は言うわけ。「たかが『砂』じゃないか」と。どうしても言うの。でも悪いことは悪いことでしょ!と世間は言う。そりゃそうだ。でもね、それでね、「砂丘の砂を取って来たかどで彼らは死刑になったそうですよ」となったら、「いやいや、そこまでしなくてもよかったんじゃないですか!たかが砂だし」とみんな初めて口にするんじゃないかなって。

会場:
(笑)

嬉野:
それで、ああいうことを言ったんですよね。悪いことは悪い。でも悪いにしてもランクがあるんじゃないのかっていう。

T木:
なるほどぉ…。シャープさんは株価とかシビアな炎上も経験されていますが。

シャープさん:
まあ炎上って、ツイートがきっかけで炎上する場合と、会社の周りが燃えてる場合があって…。それがごっちゃになる。火の粉がここばっかりかかってくる。

T木:
攻撃が一人にきて、一人で対処しないといけない。

シャープさん:
そう。手当とか欲しいですよ。

嬉野:
いいねえ。危険手当。

(つづく)

----------------------

お読みいただきありがとうございました。明日は
(明日の記事「会社に頼らず、ファンに頼る」に続きます)

連載目次》
第1話(3月13日)
まずは前枠「ほんとうに初めまして。」
第2話(3月14日)
「行きがかり上、中の人やってます」
第3話(3月15日)
「宣伝しながら宣伝しない」
第4話(3月16日)
「『ありがとう』に泣かされる」
第5話(3月17日)
「炎上の火中、エモさで飛び込む」
第6話(3月18日)
「水曜どうでしょうVSコンプライアンス」
第7話(3月19日)
「会社に頼らず、ファンに頼る」
第8話(3月20日)
「テレビ局をやめようと思った日」
第9話(3月21日)
「前向きに、友達を減らそう」
第10話(3月22日)
「注釈は、堂々と言えば、文脈になる」
最終話(3月23日)
「幸せな働き方ってどんなものですか?」

◎嬉野雅道の初エッセイ「ひらあやまり」ついに文庫化!文庫化にあたって大幅改訂との噂です。

シャープさんの解説文も読めるお得すぎる文庫版「ひらあやまり」は、3月23日発売!
文庫化にあたって嬉野さんによる大幅改訂が行われ、より読みやすくなったともっぱらの噂です。忙しい日々の合間にも、のんびりすると決めた日の午後にも、読めばすーっと力が抜けてほっと一息、不思議と力が湧いてくること請け合いです。
表紙はアニメ「進撃の巨人」を手がける巨匠、浅野恭司さんの書き下ろし。
Amazonにて、絶賛ご予約受付中!もちろん書店派のみなさんは、書店でご予約くださいね。よろしくお願いします!


◎水曜どうでしょうディレクター藤村忠寿・嬉野雅道と人生を旅するマガジン 『Wednesday Style』創刊!

水曜どうでしょうディレクター(D陣)藤村忠寿と嬉野雅道が、毎月多彩なゲストを編集長にむかえてお届けする月額マガジン「Wednesday style」。3月のゲスト編集長は、ライター・カツセマサヒコさんです。テーマはあえて直球の、「テレビとインターネット」。購読受付中です!

〇『Wednesday Style』、いよいよ公開開始!創刊イベントの様子を一部公開中。会場の雰囲気をお楽しみください。

(今後のゲスト編集長:SHARP公式さん病理医ヤンデルさんたらればさん

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!