第5話 「炎上の火中、エモさで飛び込む」
水曜どうでしょうカメラ担当ディレクター・嬉野雅道と、SHARP公式の中の人・シャープさん。大阪で語り合った連載の第5話をお届けします。(聞き手:嬉野珈琲店、T木)
*前回のお話はこちら→第4話 「『ありがとう』に泣かされる」
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シャープさん:
結構周りからは、ツイートの内容とかについて「計画的にやってるんでしょう」って言われますけど、違うんです。
T木:
計画的じゃない。
シャープさん:
ぼくは結構商店街の八百屋のお兄ちゃんみたいな感覚でやっていて。商店街の店主っていきなりお客さんに商品売らないじゃないですか。「今日寒いね」とか与太話をしながら、必要なときに野菜を売るっていう。
嬉野:
ははー、なるほど。
シャープさん:
僕の感覚としてはそういうコミュニケーションのつもりでツイッターをやってるうちに、規模が大きくなっていったという。
嬉野:
規模が大きくなってもスタンスは変わらないところがいいですよね。
シャープさん:
ただ、八百屋とはいえ世間とは繋がってるわけで。
(スライドに、シャープの経営状況が悪化した時期の新聞記事が映し出される)
嬉野:
そこは、八百屋じゃねえもん。
会場:
(笑)
シャープさん:
ぼくの感覚がですよ(笑) でも軒先は世間といいますし。しかも、母屋が後ろで燃えてたりするわけですから。文句言いやすいんですよねツイッターって。
T木:
なるほど。
嬉野:
そうなると、八百屋の兄ちゃんが今度は矢面に立っちゃうわけだ。
シャープさん:
そうなんです。それでぼく1000件とかのレベルで「死ね」とか浴びてるわけです。
会場:
(どよめき)
嬉野:
ははー。
シャープさん:
でもまあ、それも仕方ないんですけどね。デイトレーダーの人とか株下がったら人生変わるわけですし。ただ「死ね」と言われながらも、ツイートし続けないといけなかったというのが。
T木:
なるほど。
シャープさん:
どんどん環境が変わっていくわけです。創業者の銅像が朝来たらなくなってたからすげえと思って。
T木:
すげえって(笑)
シャープさん:
ほんとにすげえなーって。そんななかでも、一番しんどかったのがある外国の企業との提携が報道された時です。
嬉野:
はい、はい。
シャープさん:
「死ね」「殺すぞ」「お前の会社の前でデモいくぞ」とか。こういうときっておさまるまで黙るというのがセオリーやとは思うんですけど、僕はやっぱり今後もしゃべりつづけるためにも、見て見ぬ振りをするべきでないと思って。
嬉野:
ああ、なるほどね。
シャープさん:
いただいているコメントは、少なくとも一社員である私が全部読んでますよということを伝えようと思って。で、最後にこれをツイートして。
T木:
前田敦子さんのころです。
シャープさん:
このツイートの手前でやめといてもよかったんですけど。結果的に、このツイートが炎上時に会社を救ったみたいな見出しで新聞にも載って。「おお……」って。ゆるいんだけどエモいというか。
嬉野:
ああいうときに反論したりすると余計悪くなりますよね。スルーしても、スルーしたことを叩かれるし。なにかリアクションしなきゃだめなんだろうね。
T木:
なるほど。
嬉野:
このシャープさんのツイートを見た瞬間に、フォロワーさんたちも普段の自分に戻れるんじゃないかな。「シャープ」って企業へのクレームとしてコメントしてたけど、「シャープさん」という八百屋の店先を思い出すんじゃないのかな。
T木:
八百屋のお兄さんですね。
嬉野:
そうそう、お兄さんだったってことを思い出したら、お兄さんに「死ね」とか言えなくなっちゃったという。でも、矢面に立ってる人は、これでもなにか言われるかもしれないという怖さもあったはず。
シャープさん:
たぶん「死ね」とかそういうのは、会社という無機質な壁に向けて投げてるだけだとは思うんです。だけどその壁の裏に人いますよっていうのを伝える。
嬉野:
だってこんな親しみやすい人が出て来るんでしょ。
会場:
(笑)
T木:
ちなみに、嬉野さんは炎上経験は?
嬉野:
んー? 2005年にね、ホームページをリニューアルしたときだね。見出しをほんのシャレでね、「日本初!金満バラエティ」「本日も儲かっております」って書いて…。
T木:
あははは。
嬉野:
DVD売れてるし、正直で、いいじゃないかと思って。
会場:
(笑)
嬉野:
そうしたら「一生どうでしょうしますはどこへ行ったんですか!」って。これは炎上とは言いませんけどね。お叱りを受けたわけ。あっさりと午後には看板をおろして。
シャープさん:
(笑)
嬉野:
「一生どうでしょうします」にね、すぐに手のひらをかえして。あっという間に沈静化しました。
T木:
手のひらをかえして(笑)
(つづく)
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お読みいただきありがとうございました。明日は日本中の会社で飛び交う「もし何かあったらどうする」という呪いの言葉の話から、あの「砂の事件」まで、いよいよ共感し合う嬉野さんとシャープさんの様子をお届けします。お楽しみに。
明日の記事「水曜どうでしょうVSコンプライアンス」に続きます)
《連載目次》
第1話(3月13日)
まずは前枠「ほんとうに初めまして。」
第2話(3月14日)
「行きがかり上、中の人やってます」
第3話(3月15日)
「宣伝しながら宣伝しない」
第4話(3月16日)
「『ありがとう』に泣かされる」
第5話(3月17日)
「炎上の火中、エモさで飛び込む」
第6話(3月18日)
「水曜どうでしょうVSコンプライアンス」
第7話(3月19日)
「会社に頼らず、ファンに頼る」
第8話(3月20日)
「テレビ局をやめようと思った日」
第9話(3月21日)
「前向きに、友達を減らそう」
第10話(3月22日)
「注釈は、堂々と言えば、文脈になる」
最終話(3月23日)
「幸せな働き方ってどんなものですか?」
◎嬉野雅道の初エッセイ「ひらあやまり」ついに文庫化!帯に抜粋された解説文は…。
シャープさんの解説文も読めるお得すぎる文庫版「ひらあやまり」は、3月23日発売!
帯にも解説文が抜粋されています。
「『ひらあやまり』を手に取るたび、私は冒頭の第一段で、深く慰められる自分を発見する」
シャープさん(SHARPのツイッターの中の人)/解説より
なぜシャープさんはこの一文に至ったのでしょうか。札幌と大阪、遠く離れたふたつの会社の中で、それぞれの思いを抱えながら働く嬉野さんとシャープさんの静かな共鳴に胸が熱くなること必至です。
表紙はアニメ「進撃の巨人」を手がける浅野恭司さんの書き下ろし。
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水曜どうでしょうディレクター(D陣)藤村忠寿と嬉野雅道が、毎月多彩なゲストを編集長にむかえてお届けする月刊マガジン「Wednesday style」。3月のゲスト編集長は、ライター・カツセマサヒコさんです。テーマはあえて直球の、「テレビとインターネット」。購読受付中です!
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