【亭主より】きみは知っているだろうか。老舗洋菓子店の異形のケーキ。(インスタグラムより)
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【亭主より】きみは知っているだろうか。老舗洋菓子店の異形のケーキ。(インスタグラムより)

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さて、これは、東京は神田淡路町にある老舗洋菓子舗「近江屋」さん謹製のケーキ「苺サンドショート」である。

一見すると苺のショートケーキにも見えるが、食ってみれば分かる、苺の規模がまるで違うのだ。となれば当然、苺の鮮烈なる酸味も🍓規模が違ってくる。かくて充填される生クリームの規模も違ってしまい、うっかりこのケーキをひとりで完食するのは剣呑となるのである。

だが、食いだすと苦も無くひとりで食えそうにスッキリ美味いのだ。思いの外に生クリームが胃に負担をもたらさない上質のものだからであろう。こういうところが危険なのである。私も腹は八分目でないと命取りになる年齢である。取り返しはつかない年齢なのである。

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⁡とはいえ、この日の私の本当の目当ては、このケーキではなかったことをここに白状しよう。「近江屋」の夏の宝と言えば桃を丸ごと一個使った異形のケーキなのだ。

水蜜したたる極上の桃が丸ごと一個ケーキになったあのビジュアルの破壊力をきみは知っているだろうか。あぁ思い出すだけで口の中でグジュッとつぶした桃が瞬間で水蜜になって甘く喉を潤してゆく感じが蘇って喉が渇きを覚えてしまうほどだ。そして、その極上の桃の中には、なんと、カスタードクリームが詰まっているのだが、このカスタードクリームが水蜜したたる桃の実のスッキリとした甘さを損なわない甘さで驚くったらないのである。

だが「近江屋」さんの油断のならぬところは、だからといって店に行ったところで、その桃のケーキになんか、なかなかお目にかかれないところである。なぜなら、「近江屋」という店は、予告もなく、ある日、いきなりショーケースに桃のケーキを並べてくるからである。つまり毎日張り込みでもしていない限り滅多にお目にはかかれない夏の大人気商品なのである。だからうっかり買いそびれるのだ。

それなのに、「次、桃のケーキはいつ店頭に並ぶのですか?」と尋ねても、「分かりません」と、店員は誰ひとり教えてくれようとはしない。「いやいや、知らないはずがないだろう!」と、そう思うのだが彼女たちの口は硬い。なんなら笑顔も少ない。おそらく、あの店の売り子の人たちは、売り子という仕事に徹したプロフェッショナルなのだろう、だから、お愛想などというサービスを知らない。そんなサービスより、他では見たことのない人の度肝を抜く異形のケーキを提示してくれ、そしてその異形のケーキをべらぼうに美味い味に仕上げてくれている。ならばサービスとはこれだろうという無言の自負。畏れ入るばかりなのである。こうまでつれなくされては客はもうついて行くしかないのである。

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この日も私は出遅れて、目当ての桃のケーキを買いに行ったのに買いそびれ、腹いせ半分でこの定番ケーキを買って帰ってホテルでやけ食いしたのである。しかし、やけになった気持ちはこのケーキをひと口食ったときに治ってしまった。やはり、これはこれで食ったら問答無用に美味かったのである。

近く、ご賞味あれ!

(7月1日 嬉野珈琲店Instagram(@uresiinocoffeeshop)より)


ホワイト・スキ・カモン!
『水曜どうでしょう』カメラ担当ディレクター(HTB 北海道テレビ放送)。うれしーとも呼ばれています。noteには、毎日「言葉の切れはし」を置いていました(2019年)。著書に『ひらあやまり』『ぬかよろこび』(KADOKAWA)、共著に『腹を割って話した』(イースト・プレス)など。